ウィスキー愛好家の間でしばしば話題にのぼる「フェノール値」。特にアイラモルトやスモーキーなシングルモルトを好む方にとって、この言葉は避けて通れない要素です。しかし、実際のところフェノール値とは何なのか?、そしてそれが**ウィスキーの味わいや香りにどう影響するのか?**について、詳しく理解している方は意外と少ないかもしれません。
この記事では、ウィスキーの専門家として、フェノール値の定義からその測定方法、そしてウィスキーの風味への影響までを徹底解説します。フェノール値の基礎から応用までを理解することで、より深くウィスキーの世界を楽しめるようになるでしょう。
フェノール値とは?
フェノール値(Phenol level)とは、ウィスキー中に含まれるフェノール系化合物の濃度を表す数値のことです。主に「ppm(parts per million)」という単位で表され、1ppmは100万分の1の濃度を意味します。
ウィスキーにおいては、このフェノール系化合物の代表格がピート(泥炭)由来のスモーキーな香りの元となる物質です。つまり、フェノール値が高いほど、「ピーティー」「スモーキー」と表現される香りや風味が強く感じられる傾向にあります。
フェノール系化合物とは?
フェノール値を語るには、まず「フェノール系化合物」が何かを理解する必要があります。これらは有機化合物の一種で、以下のような成分が含まれます:
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フェノール
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グアイアコール
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クレオソール
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4-メチルグアイアコール
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シリンゴール など
これらはピートを燃やした際に発生する煙に含まれており、麦芽(モルト)に燻煙として吸着されます。これが、フェノール値の起点です。
フェノール値はどこで決まるのか?
フェノール値は、主に製麦(モルティング)工程で決定されます。
1. ピートによる乾燥
大麦を発芽させた後、その酵素活性を止めるために加熱乾燥を行います。このとき、熱源としてピートを燃やすと、スモーキーな成分が麦芽に吸収されるのです。これを「ピーティング(peated)」と呼びます。
2. ピートの種類や使用量
ピートの産地や性質によってもフェノールの構成が異なり、アロマや風味に影響します。アイラ島のピートは海藻や苔が多く含まれており、ヨード臭や潮風のような個性的な香りをもたらします。
フェノール値と味の関係
一般的に、以下のような印象があります:
フェノール値(ppm) | 味わいの傾向 |
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0~5ppm | 非ピート。ほぼスモーキーさは感じられない。 |
5~15ppm | わずかにスモークを感じる。入門者向け。 |
15~30ppm | 明確なスモーキーさがあり、個性が際立つ。 |
30~50ppm | ヘビーピーテッド。スモークが主役。 |
50ppm以上 | 超ヘビーピーテッド。圧倒的なスモーキー感。 |
ただし、注意すべき点はフェノール値はあくまで「原料麦芽の値」であることが多いという点です。実際のウィスキーには、熟成過程で成分が変化したり、香味が丸くなったりするため、体感のスモーキーさとは一致しないこともあります。
フェノール値が高いウィスキーの代表例
スモーキーなウィスキーとして有名なものをフェノール値と共に紹介します:
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アードベッグ 10年:約55ppm(麦芽時点)
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ラフロイグ 10年:約40ppm
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ラガヴーリン 16年:約35ppm
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オクトモア 08.3:309ppm(史上最もフェノール値が高い部類)
オクトモアシリーズは、フェノール値を「挑戦」のように上げていくことで知られており、300ppm超という超ヘビーピーテッド・モルトです。
フェノール値は好みで選ぼう
フェノール値はウィスキー選びの指標の一つです。自分の好みに合わせて、以下のように活用するとよいでしょう。
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初心者・バーボン好き → フェノール値 0~10ppmのモルト
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少し冒険したい → 15~30ppm
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スモーキー信者 → 40ppm以上を
フェノール値は単なる数値ですが、それを読み解くことでウィスキー選びが格段に面白くなります。
まとめ:フェノール値を理解して、ウィスキーをもっと深く味わう
「フェノール値とは?」という問いの答えは、単なる化学的な数値にとどまりません。それは、ウィスキーが持つ香りや味わいの個性を数値化した一つの指標であり、飲み手にとっての道しるべとなります。
今後、ウィスキーを選ぶ際には、ラベルの「Phenol: ○○ppm」という表記にも注目してみてください。そこには、蒸留所の哲学やこだわりが込められているのです。